『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』をモーっと楽しもう

おかえりなさいませ(*- -)ペコリ
ココでは『9人の翻訳家』を徹底解析
完全ネタバレとなってますので
鑑賞前のお客様はご遠慮下さいませ。
目次
9人の翻訳家 囚われたベストセラー

2019年:チェコ公開 2020年:フランス・日本公開
監督:レジス・ロワンサル
出演:ランベール・ウィルソン・オルガ・キュリレンコ 他
大ベストセラー3部作『デダリュス』の完結編が遂に完成!世界同時発売のため9人の翻訳家が完全隔離されたフランスの豪邸の地下室に集められる。ミステリー小説『ダ・ヴィンチ・コード』の第4作目となる『インフェルノ』の出版の際に違法流出を防ぐため著者ダン・ブラウンの同意のもと翻訳家たちを秘密の地下室に隔離して翻訳作業を行っていた…という驚くべき事実をインスパイアされ作られたのが『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』。ココではすでに鑑賞された…という前提で完全ネタバレ解析記事として語っていきますのでご注意ください。

作中では『非人道的』と扱われていましたが…実際はどうだったんでしょう
プロローグ

大ベストセラー『デダリュス』完結編『死にたくなかった男』の権利をアングストローム出版が獲得。3月の世界同時発売に向け12月には多言語の翻訳を同時に開始すると宣言。

フランスの豪邸の地下シェルターに集められた9人の翻訳家は厳しい監視下のもとで1日20ページだけの原稿を翻訳していく日々を2か月間も過ごさなければいけない。本来は全体の物語を把握した上で翻訳していくべきものだが違法流出を恐れるあまり作品の質を疎かにするアングストローム。しかしアングストロームの携帯に『冒頭の10ページをネットに公開した…』という脅迫メールが届く…
Who done it
ミステリーでよく使われる用語で『フーダニット』要は『犯人は誰?』という意味になるが本作では複数の『誰?』が存在していました。結果的には全ての『誰?』はアレックスというオチではあるが見事に騙されたのではないでしょうか?

著者オスカル・ブラックは誰?

『デダリュス』3部作の著者オスカル・ブラックは冒頭の火事で燃えているフォンテーヌ書店の店主ジョルジュ…と出版社オーナーのアングストロームでさえ騙されていました。しかしジョルジュが可愛がっていたアレックスが『デダリュス』の本当の作者でした。アレックスは『デダリュス』の出版を拒みますがジョルジュが書いた事にすれば…という条件をジョルジュに提示します。そこでジョルジュはオスカル・ブラックというペンネームで出版する事を条件にアングストロームの出版会社で発売される経緯となります。
ここで未だに疑問なのだが…なぜ?アレックスは『デダリュス』の出版を拒んでいたのか?『デダリュス』の中身が分からない以上は『謎』のままで終わってしまうのだが…アレックス自身の大切な思い出が題材になっていて、ジョルジュに作家として認めてもらうために書いた物語であって世に出すつもりはなかった…としか解釈できない。もしかしたら『9人の翻訳家』がヒットしたならばスピンオフ的な扱いで『デダリュス』の映画化を考えていたのではないでしょうか?

『デダリュス』の中身が非常に気になってしまう。
刑務所にいたのは誰?

物語の展開としても非常に作りこまれていて導入部としてアングストロームが刑務所で『犯人』と思われる人間に『犯行方法』つまりは『ハウダニット』を問い詰めています。ここでまた騙されたのが刑務所に入っているのが『犯人』と思われる人間ではなくアングストロームだったという事実。彼が刑務所に入っているという事は豪邸の地下で何か犯罪を行った…という事になります。
そしてアングストロームが話していた相手がアレックスでした。アレックスの登場で『フーダニット』が明かされる事になりココからの展開は『ハウダニット』へと移り変わる事になります
脅迫メールを送ったのは誰?

地下シェルターでの監視下のもと行われた翻訳作業の中での脅迫メール…内容から犯人は翻訳家の中の誰か?という訳だが…全ての通信機器は没収され監禁されている以上は犯行を地下シェルターでは行えません。このトリックは特に難しくはなく自動でメールを送る設定をしていればいいだけで…本当に難しいのはアングストロームが脅迫メールを受け取った時にどんな行動をするのか予想する事。1回目の脅迫メールでお金を振り込んでしまったらトリックが成り立たなくなってしまう。しかしイングリッドが『こういった脅迫は1回目と2回目はスルーして…3回目で払うのよね』と思いっきり今後の展開をネタバレしています。

イングリッドの姉さんよ…やれやれだぜ
How done it

全員ではなかったが9人の翻訳家の中のアレックス、ハビエル、イングリッド、チェン、テルマの5人が協力をして犯行を実行。ただアレックスが著者である以上はバッグの入れ替え作戦自体は全くの無意味でこの『トリック』で原稿を手に入れた…という事実さえあればアレックス的にはOKなのである。だって既に原稿を持っている訳ですから。ココでまた疑問が残ってしまう…協力した4人はリスクの割にはリターンが見合っていない。翻訳家の不遇な扱いや文学愛を材料にして説得していたが犯罪に加担するには捕まった時のリスクは高く…作戦自体の穴も大きい。もし暗証番号が分からないままでバッグを開けれなかったとしたら…どう説明していたのだろうか?

完璧な計画は…無計画だ!
オリエント急行殺人事件

ココで監督の遊び心で…私たちがミスリードするように伏線を張られていました。子供の頃のアレックスがジョルジュに『オリエント急行殺人事件の犯人は?』と聞かれた時に『全員犯人!』と答えているシーン。この伏線は面白い使われ方をしていて5人の原稿コピー作戦のエピソードの後に導入されます。つまり『5人が共犯なんだ』と思わせた後に『オリエント急行殺人事件』のエピソードを加えた事で共犯説を信じ込ませた後にアレックス単独の犯行だった…というトリック。

やりたい事は分かったけど…なんか姑息で違和感しかなかった
Why done it

アレックスがこの計画を行うに至った動機は『デダリュス』を金儲けの道具としか見ていなく翻訳家を監禁して作業に充てるような家畜同然の扱いをするアングストロームに対し怒りを覚えただけではなく作家として育ててくれた師ジョルジュを階段から突き落とし書店に火を付け殺害したのにも関わらず平然と過ごしているアングストロームに対しての復讐が全ての動機となった。
『真実』の奥の更なる『真実』

〈オスカル・ブラック〉〈脅迫メールの犯人〉〈原稿の流出〉の全てがアレックスの単独での行動。しかもどれも罪に問われないという完全犯罪。更に共犯として手伝わせた4人も結果としては原稿を盗んだ訳ではないので線路周辺でバタバタしていただけだし…原稿の流出も独占契約をしていない自分の原稿をネットに流しただけ…要求したお金もアングストロームの口座に振り込んだことで罪には問われにくい。
もうアレックスが半沢直樹にしか見えない

やられたら…やり返す!倍返しだ!
囚われたベストセラー
『あなたは、この結末を誤訳する』というキャッチフレーズがあっただけに鑑賞後にじっくりと考察したのだが…やっぱり『私は誤訳』してしまいました。真犯人は『アレックス』という答えを出してしまったのですが…

この『9人の翻訳家』の〈真犯人〉は実はタイトルから既に知らされていたのです。

『囚われたベストセラー』が副題ですが…『囚われた』のは『ベストセラー』つまり『デダリュス』が〈真犯人〉に囚われていたという事です。アレックスも言ってます『この物語の犯人は1人だけ』と…

個人的な解釈ですが〈真犯人〉はアングストロームと解釈してます。犠牲になったのは『デダリュス』で彼は作者が本を通じて伝えたかった事やメッセージを無視して強引に翻訳させ早いところ出版させ利益を上げようとしていました。そして翻訳家の人権も無視して監禁させるという暴挙に出ています。まさにアングストロームの手によって『デダリュス」は囚われてしまったのです。この物語のは犯人は1人だけです…それは『アングストローム』だったのです
総括
2020年のミステリー傑作作品が『ナイブズナイト』と『9人の翻訳家』なのだが甲乙つけがたい両作品。アナ・デ・アルマスの可愛さで若干だが『ナイブズナイト』が優勢か?と冗談はさておき…本作は二転三転するかと思ったら結局はグルッと一周して元の位置に戻ってました…という映画。最後に使用人ローズマリーがアングストロームに一発かましてくれたのは最高のカタルシス!テンポの問題もあるので長ければ良いのか?という問題はあるが説明されていなかったエピソードなんか入れたディレクターズカットがあれば是非観てみたい。と語りたい事は無限にでてきそうなのだが今回はココまでにしたい。この映画は見終わった直後にアレコレと語れる人がいたら…もっと楽しめる作品になりそうですね。

今回も長文失礼いたしました
それでは…
またのお越しをお待ちしております
