『ナイブズ・ナイト 名探偵と刃の館の秘密』をモーっと楽しもう

軍師かんべえ

おかえりなさいませ(*- -)ペコリ
『ナイブズアウト 名探偵と刃の館の秘密』
徹底解析 完全ネタバレとなっております
賞前のお客様はご遠慮下さいませ

本記事は 『ナイブズアウト 名探偵と刃の館の秘密
感想レビューとなっておりネタバレが含まれております。
本編未鑑賞の方は予備知識編『100倍楽しもう』の記事をご確認の上で再度お越しください

ナイブズ・ナイト 名探偵と刃の館の秘密

引用元:映画『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』公式サイトlongride.jp
2019年:アメリカ公開
2020年:日本公開
監督:ライアン・ジョンソン
脚本:ライアン・ジョンソン
製作:ラム・バーグマン、ライアン・ジョンソン
製作総指揮:トム・カーノウスキー
出演者:ダニエル・グレイグ、クリス・エヴァンス、アナ・デ・アルマス
    ジェイミー・リー・カーティス、マイケル・シャノン
    ドン・ジョンソン、トニ・コレット 他
音楽:ネイサン・ジョンソン
撮影:スティーブ・イェドリン
編集:ボブ・ダクセイ
製作会社:メディア・ライツ・キャピタル
     T‐ストリート・プロダクションズ
配給:ライオンズゲート
   ロングライド

『スターウォーズ/最後のジェダイ』のライアン・ジョンソン監督が完全オリジナル脚本で手掛けた『ナイブズ・ナイト』

『007』のダニエル・クレイグや『キャプテン・アメリカ』のクリス・エヴァンスを始め豪華キャストが集結。息も付かせないハイテンション・ノンストップ・ミステリーと銘打っていただけに過去に例がない展開で私達の心を見事に釘付けにしてくれました。

2017年に公開されたライアン・ジョンソン監督の『スターウォーズ/最後のジェダイ』が残念な映画だっただけに今回に掛ける意気込みは相当なものがあったに違いない。別にライアン監督を擁護するつもりはないが…『スターウォーズ』のような巨大産業となる商業映画では制約や縛りが相当に厳しく思い通りの表現をすることは中々難しかったりするのである。

その鬱憤を解消するかのように監督だけでなく脚本も自ら手掛けている。もともと脚本家として映画界で活躍していただけに見事なまでなプロットでアカデミー賞では脚本賞にノミネートされるほど評価の高い脚本となっています。

やはり監督、脚本だけでなく製作までも携わっていたので自分の思い通りに映画を製作できたことが大きかったのかもしれません…といったようにココではナイブズアウト 名探偵と刃の館の秘密既に鑑賞しているという前提で記事を作成しております。ネタバレ注意となっておりますのでご了承ください。

軍師かんべえ

才能ある人に自由に映画を作らせたら…こんなに面白い作品ができることが分かりました。

唯一無二の展開

如何にもな豪邸で…如何にもな大富豪が亡くなり…如何にもな名探偵が現れ…如何にもな遺産相続争いが繰り広げられる。ミステリーファンなら何度も見たことあるよ!という思わず呟いてしまうほどの『ベタベタ設定』であった『ナイブズアウト 名探偵と刃の館の秘密』

ただ水戸黄門の印籠シーンのように展開が分かっていても期待が膨らんでしまうベタ設定でもある。ホームズやポアロが如何にも出てきそうな洋館で事件は起こるが今回登場するのは名探偵ブノワ・ブラン

テニス殺人事件を解決した『最後の紳士探偵』。この名探偵が私たちが今までに見た多くのミステリー作品をも超越する唯一無二の展開へと誘ってくれます。

飽きさせない演出

ハーランの85歳の誕生パーティーの翌朝に彼は家政婦のフランにより遺体として発見され警察は状況から自殺と断定する。しかし名探偵ブノワ・ブランの元に匿名でハーラン自殺の再捜査の依頼が札束と共に送られてくることで物語は始まります。

ハーラン死亡から1週間後に再びハーランの家族が屋敷に呼ばれ名探偵ブノワ・ブランに事情聴取を受ける事になります。ここまでの展開は一般的なミステリーで使用される犯人は誰なの?と云われる『フーダニット形式』で繰り広げられていました。

次々と事情聴収を受ける家族は嘘ばかり。回想シーンを上手に挟む事でブランは家族の矛盾点に気付くという演出は実に素晴らしかったです。

長女のリンダは『父の手を借りずに0から自分の不動産会社を設立した』と豪語していましたが、実際はハーランの援助で会社を設立したため権利はハーランにある…と後に息子のランセムが語っています。

リンダの夫リチャードも浮気現場の画像を見せられハーランと揉めていた事をブノワに誤魔化していました。次男のウォルトはハーランにクビを宣告された事。ジョニも娘の学費を二重取りしていたのがバレて援助を打ち切られた事。家族全員が事情聴取でを付いていました。しかし名探偵ブノワ・ブランは家族の嘘を全て見破っていたのです。

いつ…どうやって…家族の嘘を見破ったのか…それは後に語っていきたいと思います。

そして最後に事情聴収を受ける専属看護師のマルタの回想から一気に展開がシフトします。

倒叙形式にシフト

突如として専属看護師のマルタはハーランに間違って大量のモルヒネを投与した事でハーランとの共謀で自殺トリックを行っていた…というエピソードが挟まってくるのである。

ここまで『フーダニット形式』で進んでいた展開だったのだが…序盤で『犯人を明かす』という、まさかの展開。一気にマルタが如何に犯行を隠すのか…ブランが如何に真実を突き止めていくのか…という倒叙形式の展開へとシフトチェンジします。

ビデオテープの中身を消したり…足跡を隠したり…折れた壁枠を投げたり…と必死に証拠を隠すマルタ。これまでにマルタという人物像が見せていた優しい心があったので…『頑張れマルタ!』と思わず応援したくなるほど私はマルタに感情移入していました。

物語の後半にマルタはブランに真実を告げるのだが…ブランは『そんな事は最初から分かっている』みたいな顔をして『自分に捜査依頼をした謎の人物がこの事件のカギ』だと言い…そしてココから再び『誰が依頼者なのか?』という『フーダニット形式』に戻ってしまします。

『フーダニット形式』⇒『倒叙形式』⇒『フーダニット形式』の流れこそが最後まで手に汗を握らせそして飽きさせない展開を演出していた正体なのです。

倒叙形式はライアン監督のトリック

『フーダニット形式』のミステリーの途中に『倒叙形式』を挟むという唯一無二の展開を演出したライアン監督。この二つの形式を組み合わせる事で専属看護師マルタの心情がよりよく作品に表われていました。

『フーダニット形式』だけのミステリーだと探偵の推理が中心となるため犯人が明かされるのは最後の最後になってしまいます。どうしても謎解きがメインとなってしまうのだが途中で『倒叙形式』になったことで、この作品の主役がマルタに移り変わります。

おそらく皆さんも私と同じ気持ちになったかと思われますが…『マルタ可哀そう』『マルタは悪くない!』『マルタ頑張れ!』といった感情が芽生えたのではないでしょうか…そしてクライマックスでは『マルタ…良かったね』という安心感さえ感じました。この感情がこそがライアン監督が私たちに仕掛けたトリックだったのではないでしょうか…

名探偵ブノワの凄さ

『倒叙形式』を途中で挟んだこともありマルタに主役の座をシフトされた事でブノワの推理力の凄さが薄れてしまった感はありますが実はブノワはメチャクチャ凄い名探偵なんです。

マルタ瞬殺

ブノワはマルタの靴に血がついていた事でハーランの自殺に関与していると気付いたと言っていましたが…マルタと初対面の時に思いっきり靴を見ていました。この時点でマルタの関与に気付いていたのです…まさに瞬殺と言っていいでしょう

家族の嘘を見破る

ブノワは家族の事情聴収中に疑問を抱いていました。リチャードの彼女には私から伝える』。ウォルトの『怪我した子犬の様にシュンとしていた』。ジョニの『学費の件で行き違いが』この時点で『何か、この家族たちは隠している』と

そしてマルタと会った時に靴を見て『マルタは自殺の現場にいた』と判断したことで家族の疑念が強くなっていったのです。

マルタが嘘をつけない人間だという事はハーランの自殺説は事実だという事になります。そしてマルタが自殺現場にいたという事はハーランがマルタを庇って自殺したという事になります。

では何故 ハーランがマルタを庇ったのか…はハーランは家族にではなくマルタに遺産を譲る決意をしていたという事である。そのためハーランは家族の身辺整理をしていた…という推理を一瞬で考え、『浮気』『解雇』『援助打ち切り』に辿り着いたのではないでしょうか

ただココまでは疑念止まりですが、マルタに確認した時に疑念が確信へと変わった…という私の邪推です。

ラムセス秒殺

ラムセスがブノワに初めて会った時に『CSI:KFC』と呟いていました。『CSI:KFC』とは南部出身をバカにする差別用語との事みたいだ。初めて会って、まだ会話さえしていないブノワに対し南部出身者に対する差別的な発言をした事でブノワはラムセスが『匿名の依頼者』だと気付いてしまったのです…まさに秒殺。

いかがだったでしょうか…途中で主役をマルタに取られてしまっただけに彼の名推理の場面が事細かく説明されていませんでしたが…しっかりと推理していました。さすが『最後の紳士探偵』

アメリカの格差社会

本作の裏テーマも呼べるものが『アメリカの不法移民問題』 作中でもパーティーの夜に不法移民の問題で熱いバトルが繰り広げられていました。

米国のトランプ大統領は再び不法移民に対し強硬姿勢を取り始め国外退去させると言っています。更にメキシコとの国境に『壁を建設』と再び強調し始めている。明らかにトランプの目的は『アメリカは白人国家』と訴える事で白人保守層の支持率を高めること。作中でもリチャードが『彼らは法を犯した…同情するが、報いは受けるべきだ!と危険な主張をしていました。

スロンビー家の家族は『マルタは家族同然』と一見は優しい言葉をかけてはいるが、リンダは『エクアドル移民』だと言い、リチャードは『ウルグアイ移民』と言い、ランサムは『ブラジル移民』と皆がバラバラの事を言っている。家族同然の存在と言っているのにマルタがどこの出身なのかを把握していませんでした。結局は上から見下ろすような目でマルタを見ていたという事ですね。

しかし皮肉にもラストではハーランの相続を引き継いだマルタがバルコニーでスロンビー一家を見下ろしているという構図はかなり面白い落とし方でした。

ナイブズ・アウトが意味するもの

『Knives Out』とは『向けられた多くの刃』という意味。この刃は誰に向けられたモノなんでしょうか?

ブノワが事情聴収をする時にスロンビーの家族たちは1000の刃のオブジェの中心ではなく少し外れた位置に座っていました。

この刃が意味するのはスロンビー家全員という事になります。それでは1000の刃のオブジェの中心に座っていた人物が一人だけいます。

白人のスロンビー家という刃の矛先は移民者のマルタに向けられています。『アメリカは白人の国だ!』と勘違いしている今のアメリカを揶揄しているかのような演出をライアン監督は狙っていたのではないでしょうか…

『屋敷』は『アメリカ』を意味

遺産を相続したマルタに対しラムセスは

『俺は力ずくでもこの家を守る
   我々が持って生まれた先祖代々の住処だ!』

と脅しをかけるとブランが

『ハーラン氏が
  80年代にパキスタン人から買った家だ』

と一蹴。これは『白人も元々は移民だろ!』と捉えられます。

この屋敷が表していたのは『アメリカ国』そのもので、スロンビー家(白人)が後から入ってきたのに他の移民者を受け入れないのか…白人保守層の人たちは、この作品を見てどう思ったのでしょうか…

My house、My rules、My coffee。

最高のラストシーン!語る事はありません。このシーンが全てです。

アガサ・クリスティーに捧ぐ

もの言えぬ証人

この作品を記事にするにあたり、すこしだけアガサ・クリスティーの事を調べていた時に面白い作品を見つけてしまいました。

『もの言えぬ証人』
1937年に発表された『エルキュール・ポアロ』シリーズの長編推理小説。

~あらすじ~
ポアロは2か月前に死去した老婦人エミリイが差し出した命に危険が迫っている内容の手紙を受け取る。彼女が死の直前に作り直した遺言書には家政婦に全財産を残すことが記されていたため、遺族の憤懣と関係者の疑念が満ちる中、彼女の愛犬であった「もの言えぬ証人」こと白いテリア犬のボブは何かを語ろうとしていた…

似てません?家政婦に全財産を残す…って似てません?ただストーリーは全然違いましたけど設定が一緒ですよね。そして、もう一つ似ていたのが『もの言えぬ証人』では愛犬のボブがボールを咥えて自分のカゴに戻る修正が謎解きのヒントとなるのですが…『犬がボールを咥える』って確か…

総括

引用元:映画『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』公式サイトlongride.jp

この記事を作成するにあたり本編を5-6回は鑑賞しているのですが…実は疑問が一つだけあるのです。それが『マルタの方が碁が強い』というセリフ。

ここからは軍師『かんべえ』の完全な邪推となっていますので…暖かい気持ちと長い目でご覧ください。

ハーランは当初は遺産を全てランサムに譲るつもりだったのではないでしょうか…

『祖父に碁で勝てるのは俺だけかと…』

とランサムが呟いていたようにハーランはランサムの頭脳の高さを評価していたのだと思います。おそらくランサムに『遺産を譲るのはお前だけだ!』と伝えていたのでしょう。

ハーランは家族や家柄を守るといった事よりも自分が創り上げた作品を大事にしていたと思われます。ウォルトの映画化の提案を拒んでいたのも作品が他の手によって作り変えられるのが我慢できなかったのだと…

ハーランはランサムの頭脳の高さを買っていたと同時に彼がビジネスに全く興味を持っていない上に浪費家であった事も知っていました。自らの遺作を守るという条件でランサムに全ての遺産を譲る事を計画していたのかもしれません。そしてハーランは口約束でランサムに伝えていたのでしょう

しかしランサムより『碁に強い人間』が現れたのがランサムさえも遺産相続から外された理由だったのです。しかもその人の心は優しく嘘が付けない正直な少女だったのです。

マルタは頭が良い

一般的に言われている囲碁で必要な能力は・大局観・創造力・集中力・精神力・思考力。世界的なミステリー作家だけにハーランは、この5つの能力に長けていたはずです。そしてハーランを上回るのがランサムで その上にマルタが君臨していた…という事は、この女は相当に頭がキレるはずである。もしかしたらブラン以上に頭がキレている可能性も考えられます。

もしかしたら…私たちは全員マルタの手の上で泳がされていたのかもしれません。

でも私はマルタを信じますがね(笑)…って所でオツカレっす!!

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