『1917 命をかけた伝令』をモーっと楽しもう
おかえりなさいませ(*- -)ペコリ
『1917 命をかけた伝令』の
徹底解析 完全ネタバレとなっております
賞前のお客様はご遠慮下さいませ
本記事は 『1917 命をかけた伝令』感想レビューとなっておりネタバレが含まれております。
本編未鑑賞の方は予備知識編『100倍楽しもう』の記事をご確認の上で再度お越しください
目次
『1917 命をかけた伝令』
2019年:アメリカ公開 2020年:イギリス、日本公開 監督:サム・メンデス 脚本:サム・メンデス、クリスティ・ウィルソン=ケアンズ 製作:サム・メンデス、ピッパ・ハリス カラム・マクドゥガル、ブライアン・オリバー 製作総指揮:ジェブ・ブロディ イグナシオ・サラザール=シンプソン Ricardo Marco Budé 出演者:ジョージ・マッケイ ディーン=チャールズ・チャップマン マーク・ストロング、アンドリュー・スコット 他 音楽:トーマス・ニューマン 撮影:ロジャー・ディーキンス 編集:リー・スミス 製作会社:ドリーム・ワークス リライアンス・エンターテイメント アンブリン・パートナーズ ニュー・リバブリック・ピクチャーズ 配給:エンタテイメント・ワン ユニバーサル・ピクチャーズ 東宝東和
『本作はリアルタイムで語るべき…』とインタビューで監督のサム・メンデスが語っていた様に1914年にヨーロッパを主戦場に開戦した第一世界大戦の凄まじさを見事に映像化した作品となりました。
全編ワンカット風という触れ込みで宣伝されていたように複数のカットをワンカット風に編集されてはいるがそれでも一つのカットは相当に長回しされていて戦闘機が小屋に突っ込んでくるシーンの大迫力は言葉にならなかったのは私だけではないはずである。
まさに自分が戦場に迷い込んでしまったかのような没入感や臨場感が味わえる感覚はまさにゲームをやっているような感じに近いのかもしれません。まるで主人公のスコフィールドを操作しているかのようなインタラクティブな映像体験でした。
なぜココまで『リアル』に拘ったのか…それは監督のサム・メンデスが我々に何かを伝えたかったのではないでしょうか…まさにサブタイトルとなっているようにサム・メンデス監督からの『命をかけた伝令』が私たちに送られていたのでしょう…といったようにココでは『1917 命をかけた伝令』を既に鑑賞しているという前提で記事を作成しております。ネタバレ注意となっておりますのでご了承ください。
命をかけた伝令
「本作は、映画の歴史を語るわけでも、何かメッセージを伝えたいというわけでもない。使える映画の技術はすべてつぎ込んだよ。映画は体験だ。観客には頭を空っぽにして観て、感じて欲しい」
引用元:ニュース|映画『1917 命をかけた伝令』公式サイト
監督であるサム・メンデスがインタビューで語っていた言葉を引用させてもらいました。
この言葉が示すとおり監督は本作を通じて『反戦』というメッセージを言葉として伝えたかったのではなく、戦争の疑似体験をさせる事で私達に『戦争』を体で感じて欲しかったのではないでしょうか…
本作は第一次世界大戦の西部戦線が舞台となっているが歴史的な背景が語られる事はありませんでした。
ストーリーは最前線で戦っている部隊に作戦中止命令を伝えに行くという非常にシンプルなもので当時の無線技術を考えると直接に伝える方が確実だったのかもしれません。
当時の戦場では当たり前のように行われていた本部と前線で行われていた伝令という1点だけを本作ではクローズアップさせているのである。
こういう言い方をすると語弊が生まれるかもしれないが第一次世界大戦の戦死者は1600万人と云われています。そして前線で戦っている1600人が危険な状況となっているのである。1/10000という事である。
もし伝令が届かなくて1600人の部隊が全滅したとしても…伝令が無事に届けられて犠牲者が1人も出ていなかったとしても戦局が大きく変わるものではないのです。
作戦司令部ではまるでチェスや将棋の駒を動かすように部隊に作戦命令を出しているのである。もちろん作戦の中には捨て駒とも呼ばれる確実に犠牲となる部隊の存在もいるのである。
本作はチェスや将棋の駒を動かしているような全体を見渡せる者の視点ではなく実際に戦場で命をかけている兵士の視点で戦争というものが描かれていました。クローズアップされているからこそ戦場のリアルな臨場感が感じられたのかもしれません。
もちろんワンカット撮影も臨場感を演出する上で重要なファクターとなっているが『前線に作戦中止命令を伝えに行く』というミッションだけにクローズアップさせた事でより臨場感が出ていたのでしょう。
『1917 命をかけた伝令』をインタラクティブな映像体験ができる映画と書いたのはこういった理由からなんです。映画の世界へ没入させてしまうだけの臨場感が演出されているため、まるで3人目の主人公になっているかのような感覚になってしまうのです。
あなたは『1917 命をかけた伝令』を観て何を体で感じたのでしょうか…
スコフィールドの過去
おそらく殆どの方が主人公はブレイクだと思っていたのではないでしょうか…ブレイクが途中リタイアした時に『騙された!』と感じた方は多いはずである。ただ改めて映画を見返すとスコフィールドが主人公であるという伏線が貼られているのである。紛れもなく本作の主人公はスコフィールドなのである。
故郷に帰りたくない
スコフィールドは郵便兵…という職があるのかは知りませんが家族や恋人から送られてきた手紙を兵士たちに届ける役目をしていました。戦場という異常な環境の中で救いとなるのが故郷から送られてきた手紙である事は疑いようがありません。
スコフィールドは誰よりも故郷からの手紙に喜んでいる兵士の姿を見ているのにも関わらず『帰らない方が楽だ』と何か訳アリな感じを臭わせていました。
更にブレイクに『どうしても故郷に帰るのが嫌だった』と戦争映画では耳にしない愚痴を語っています。スコフィールドには暗い過去がありそうです。こんな謎に満ちた男を途中リタイアなんてさせませんよね…
親友ではなく戦友
二人は親友なのか…と問われれば疑問が浮かんでしまう。おそらく同じ小隊に属しているだけの戦友でお互いに詳しい事を知らない薄い関係であったことは最初の段階で理解できます。しかし戦場という過酷な環境の中では例え小さなミッションであったとしても行動を共にすれば妙な信頼関係が生まれてくるものなのでしょう。
最初こそはお互いの行動に苛立ちをみせていたが僅かの時間でブレイクのために命をかけてミッションを達成させようとするのである。
この奇妙な関係はサム・メンデス監督の祖父が語っていたエピソードに由来するものだったのです。『戦場で育んだ友情や絆は生涯の友となる』という祖父の言葉をスコフィールドとブレイクの2人に当て嵌めていたのである。
謎のケース
スコフィールドは事あるごとにポケットから緑のケースを取り出しては中に入っている何かを確認して、すぐにケースの中に戻しポケットの中にしまっています。さりげなく見ているのでスルーしてしまいそうなのだが作中で3回ほど確認をしているのである。
3回目の確認をしているラストで中身が分かるのだがスコフィールドの奥さんだと思われる女性の写真がケースの中に入っているのである。
奥さんと思われる写真をスコフィールドは爆破トラップの後、ブレイクが死んだ後、そしてラストの戦場を命がけで走り抜けた後に確認していて…全て危険が去った後に写真を見ているのである。
ココからは私の妄想と解釈になってしまうのだが…スコフィールドは廃墟の街でフランス人女性に『あなた…子供はいるの?』と尋ねられた時に無言になっていました。この無言で私の頭の中に浮かんだ事は…
スコは何かの理由で子供を死なせてい奥さんといる事で子供を思い出してしまうから故郷に帰りたくない…というのが私の勝手な解釈なのである。
しかし奥さんの事を愛しているスコフィールドは命の危険にさらされた時に無意識に写真を見てしまったのではないでしょうか…
ワンカットという技法を取っているからか…人間ドラマが語られるのは主人公のスコフィールドのみ。しかも相方のブレイクが途中リタイアするので言葉としてではなく表情や所作で読み取るしかないのである。
なかなか面倒くさい男である。素直じゃない というか…回りくどい というか…しかも頑固そうだし…でも正義感は強そうですね(笑)
4つの伝令
本作のサブタイトルになっている『命をかけた伝令』スコフィールドは映画の序盤の頃は伝令というミッションに対し少々ヤル気を失せているような感じだったのがブレイクが死んで以降は人が変わったかのように危険を顧みずに行動をしていました。
なぜ突然にスコフィールドは急変してしまったのか…それは伝令に4つの意味が生まれたからです。ブレイクの死によって伝令の真意を理解したからこそスコフィールドは命をかけて伝令を届けにいったのです。
1つ目の伝令
本作の当初の目的はD連隊に攻撃中止の伝令を届けることである。全てはこの伝令から始まっていてスコフィールドの肩には1600人の同志の命がかかっているのである。マッケンジー中佐が語っていた様に最前線にいない上層部はゲームをしているかのように攻撃命令や中止命令を出しているのである。
マッケンジー中佐はココを死に場所に考えていたのかもしれません。スコフィールドはこの事を薄々感ずいていたのでしょう。おそらくマッケンジー中佐には歓迎されない事を…だからこそ伝令を届ける事にヤル気を失せていたのかもしれません。しかし友の死が彼を奮起させることになるのです。
2つ目の伝令
途中リタイアしてしまったブレイクのためにスコフィールドは必死になって伝令を届けようとしていました。しかしスコフィールドは攻撃中止命令という伝令よりもブレイクの兄に弟の死を伝えることへと気持ちはシフトチェンジしていたのかもしれません。
決して親友とは言えない間柄であった2人でしたが僅かな時間で絆を深めていました。普通に平和な暮らしをしている我々には理解できないことが戦場では当たり前のように起きているのかもしれません。
2つ目はブレイクの死を彼の兄に知らせるための伝令だったのです。
3つ目の伝令
ラストでスコフィールドが眺めていた女性の写真の裏には『無事に戻って…』とメッセージが書かれていました。希望を失っていた夫に対し無事に帰ってきて欲しいという奥さんからの伝令だったのでしょう。
スコフィールドが何かしらの理由があって故郷には帰りたくないと…語っていたが彼の本心は常に奥さんのいる故郷に心があったのだと私は感じました。ことあるごとに眺めていたのは奥さんの写真だったのです。
奥さんが命をかけて夫に送った伝令は無事にスコフィールドの心に届くことができたのです。
4つ目の伝令
4つ目はアルフレッド・H・メンデスが戦争を知らない私たちに命をかけて送った伝令。
『1917 命をかけた伝令』は監督サム・メンデスの祖父にあたるアルフレッド・H・メンデスの体験やエピソードを基に作られた作品でありました。アルフレッドは伝令兵として戦場で負傷した兵士を救い出したとして勲章を授与されていますが…彼が救えなかった命もたくさんあったはずである。
戦争の悲惨さであったり、戦争の惨たらしさは戦争を経験した者しかリアルでは感じられないのかもしれません。残念ながら今の世の中は決して戦争のない世界にはなってはいません。だからこそ経験をした人たちの体験談というのは風化してはならないのです。
サム・メンデス監督の祖父アルフレッドだけでなく多くの戦争犠牲者が私達に命をかけて送った伝令が本作の『1917 命をかけた伝令』だったのではないでしょうか…
『戦争はダメ』という言葉よりも何倍も説得力のある映像体験でした
総括
ワンカット風の撮影技法の話題が先行して臨場感や没入感だと唱える方が多いがこの技法は『手段』であって『目的』ではないのです。もちろん映画としての迫力は凄かったのですが『本作はリアルタイムで語るべき…』という監督の言葉こそがワンカット風で撮影を行った目的なのである
もう既に第一次世界大戦を経験した人はこの世にいなくなっています。あと数年したら第二次世界大戦を
体験した人たちもいなくなってしまいます。しかし世界中を巻き込んだこの戦争は映画としていつまでも私たちの心に残り続けるのです。
だからこそ『リアル』に語りかけるためのワンカットだったのです。
残念ながらブログ記事を書いている2022年現在ではロシアがウクライナに侵攻をしている状況なのである。世界はまたしても戦争を繰り広げているのである。いったい…いつまで…あとどれくらい人間は戦争をすれば気が済むのだろうか…といった所でオツカレっす!