『ジャンゴ 繋がれざる者』をモーっと楽しもう
おかえりなさいませ
『ジャンゴ 繋がれざる者』の
徹底解析・完全ネタバレとなっております
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『ジャンゴ 繋がれざる者』の考察レビューとなっておりネタバレが含まれております。
未鑑賞の方は鑑賞前の予備知識編の記事をご確認の上で再度お越しください
目次
ジャンゴ 繋がれざる者
引用元:映画『ジャンゴ 繋がれざる者』ネタバレ感想・解説・考察!
2012年:アメリカ公開 2013年:日本公開 監督:クエンティン・タランティーノ 脚本:クエンティン・タランティーノ 製作:レジナルド・ハドリン、ステイシー・シェイル ピラー・サヴォン 製作総指揮:シャノン・マッキントッシュ、マイケル・シャンバーグ ジェイムス・W・スコッチドポール 他 出演者:ジェイミー・フォックス、レオナルド・ディカプリオ クリストフ・ヴァルツ、ケリー・ワシントン サミュエル・L・ジャクソン 他 撮影:ロバート・リチャードソン 編集:フレッド・ラスキン 製作会社:ワインスタイン・カンパニー ア・バンド・アパート 配給:ワインスタイン・カンパニー コロンビア・ピクチャーズ
2012年アメリカがタブーとしてきた黒人奴隷の実態を題材とした『ジャンゴ 繋がれざる者』が公開。タランティーノらしい鋭い切り口で黒人差別のリアルが作品の中に残酷なまで描かれていました。
この頃のタランティーノは『映画の中で復讐を遂げる』という事をテーマに多くの作品を作っていました。
個人的な復讐を果たしていく『キル・ビル』、ユダヤ人がナチスに復讐を果たす『イングロリアスバスターズ』そして今作では奴隷として虐げられていた黒人が白人に復讐を果たす内容となっています。
引用元:https://radiyond.com/django-unchained-tarantino-mov
アメリカは黒人に対しての差別行為は認めているものの具体的に過去に何が行われていたのかを表現する事はタブーとされていました。そもそも西部劇に黒人が登場していたかどうか…と問われると出ていたイメージがありません。
タランティーノは自身の作品だと脚本まで担当します。アメリカ南北戦争の数年前という時代を舞台とするなら通れない問題が黒人奴隷制度だったりします。敢えてアメリカのタブーに挑むような脚本を作ったのだと私は感じました。
『ジャンゴ』を撮りたいという気持ちが先にあったのか…『黒人奴隷制度』を描きたいと思いが先にあっての『ジャンゴ』なのかは私には分かりません。しかし本作は間違いなくアメリカのタブーに触れた作品となっていました。
おそらくプロットの段階でもかなりの苦労があったと思われます。題材が題材なだけにナーバスになってしまうスポンサーや俳優はいたはずである。
引用元:ウィル・スミス、“人生で一番ひどい体型”の写真を披露し『672万いいね』の反響
タランティーノは当初はジャンゴ役をウィル・スミスで考えていたみたいである。もちろんオファーをかけていたみたいだが出ていないので当然ではあるが断られたみたいである。
『メン・イン・ブラック3』の撮影と時期が重なったことが大きな理由だとウィル・スミスは答えているが…後に彼は『ジャンゴは主人公ではない…台本を読む限り主人公はキング・シュルツだよ…僕は主人公しかやらないから』とコメントをしたみたいである。
引用元:映画【ジャンゴ 繋がれざる者】残念でした!あらすじと観た感想
確かにウィル・スミスの言う通り途中リタイアはしてしまうがシュルツの言動は主人公そのものであり…復讐に執念を燃やすジャンゴとは違いシュルツは紳士的であり知性的でもあり しっかりとした正義感もある人物でした。
ウィル・スミスの言っている『主人公ではない』は確かにそうなのだが…ホントの降板理由であるのかは疑問である。ココからは私の邪推となるがタランティーノの黒人奴隷への差別描写にウィルは『ヤバい』と思ったのではないでしょうか…
アメリカのタブーを題材としている訳だから中途半端な脚本を書くわけがありません。おそらくウィルはこの作品は危険であると判断したのだと…と思ったかは分かりませんが…『メン・イン・ブラック3』の撮影時期と重なった事は断る理由としては十分だったはずである。
そして本作のキャスティングを語る上で絶対に話しておきたい人物がレオナルド・ディカプリオである
引用元:ジャンゴ 繋がれざる者 | ソニー・ピクチャーズ公式 (sonypictures.jp)
『タイタニック』『ロミオ+ジュリエット』といった王子様キャラのイメージが強かったレオ様が本作の出演を期に役者としての幅が一気に広がり名優レオナルド・ディカプリオが誕生したと私は本作で感じました。
悪役もできるなら…泥臭い役もできる。思わずジャック・ニコルソンとダブってしまうほど彼のインパクトは凄まじい存在感がありました。ただレオナルド・ディカプリオにしてもタランティーノが描いた黒人奴隷の描写には戸惑いが隠せなかったみたいである。
ディカプリオは『絶対に一生理解できない言葉をセリフとして言わないといけない』と現場でセリフに対し躊躇していた所をサミュエル・L・ジャクソンが『レオ…いいんだ…それでいいんだ』とフォローしていたと現場関係者は語っていました。
冒頭から続く黒人奴隷制度の真実が描かれた『ジャンゴ 繋がれざる者』 百戦錬磨の役者であっても惹いてしまう内容だからこそラストの白人皆殺しのシーンは黒人にとって爽快であったのかもしれません…といったようにココでは『ジャンゴ 繋がれざる者』を既に鑑賞しているという前提で記事を作成しております。ネタバレ注意となっておりますのでご了承ください。
マンディンゴ
引用元:https://yealink.in.th/c/W3320820
『ジャンゴ』を製作する上でタランティーノが最も影響を受けていた作品が1975年に公開された『マンディンゴ』
奴隷牧場を運営する一家の栄光と没落を描いた作品で南北戦争の20年前という時代設定となっている。奴隷制度が認められていた時代ではあるが徐々に反対の兆しが生まれつつある時代でもありました。
『ジャンゴ』を記事にする際に『マンディンゴ』の存在を知り鑑賞した訳であるが率直な感想を書かせてもらうと黒人差別の描写に対し妙に納得してしまう自分がいたのである。
よくよく考えると南北戦争前後を舞台とした作品の中で黒人に酷い仕打ちをしているシーンを見た記憶がなく使用人や農夫として働かせている映像しか思い浮かびませんでした。
それもそのはずでアメリカは過去に黒人への差別行為があったことは認めているものの具体的に映像表現することは暗黙の了解でタブーとされていたからです。
引用元:https://www.fami-geki.com/vod/movie-mandingo/
『マンディンゴ』では黒人奴隷のリアルが表現されていました。肉が裂けてしまいそうな鞭で背中に鞭打ちをするシーンや黒人女性を慰み者として扱ったり…生まれてくる子供を売買したり…まるで家畜同様の扱いを黒人は受けていたのです。
上の画像も一見は何をしているか分からないが実は白人男性が患っているリウマチの痛みを子供のお腹に移しているという謎のまじない的な事ををしているのである。
物語の良し悪しは別として今まで描かれる事がなかった黒人奴隷への真実が『マンディンゴ』では描かれていました。
私が妙に納得した事とは『マンディンゴ』の中で描かれていた黒人への虐待行為である。人が人を支配する時ってこういった残酷な事を平気でやってしまうものである。コレは白人だから…ではなく人間の中に組み込まれたメカニズムなのかもしれません。
『マンディンゴ』は当時のアメリカでは全く評価されずに眠っていた作品だったのですがタランティーノが『ジャンゴ』を製作する際に多大な影響を受けた…とコメントしたことで注目を浴びる事となったのです。
タランティーノが描いた真実
引用元:『ジャンゴ 繋がれざる者』ネタバレ感想。奴隷制度もエンタメにしてしまうタランティーノ監督の手腕!!
『マンディンゴ』の影響を受けて製作された『ジャンゴ 繋がれざる者』の中でも白人が行っていた黒人奴隷への迫害がリアルに表現していました。
物語は奴隷マーケットで購入した黒人を移送しているシーンから始まります。逃げないように足枷が施されており道中は歩いての移動なのである。ほぼ裸に近い状態で背中は鞭によって付けられた傷跡が無数にあるのです。
SMなどのヒラヒラした鞭ではなくサーカスで猛獣に使用する肉が裂けてしまう鞭で付けられた傷跡なのである。
冒頭では『ジャンゴ』のテーマ曲が流れたことで聞き入ってしまったり…タランティーノ映画特有の長セリフに思わず堪能してしまったりするがスクリーンに映し出されている映像は目を背けてしまいそうなエグいものばかりなのである。
引用元:The cast of Django Unchained aim high – TODAY (todayonline.com)
馬に乗っているジャンゴに街の白人たちは驚いたような目で見ているのです。この時代では黒人が馬に乗るという事はタブーだったことに私自身もビックリしました。更に黒人はBARに入る事も禁じられていたみたいです。
引用元:映画「マンディンゴ」アメリカ映画史から抹殺された問題作
『マンディンゴ』でも『ジャンゴ』でも描かれていたのが奴隷同士で相手が死ぬまで戦わせる格闘技。召使や農夫といった働き手として扱うのではなく娯楽目的で戦わせているのである。もちろん高額なお金が掛かっているのでビジネスといえばビジネスになるが…いかに黒人に対し非人道的な事をしてきたかが十分に伺えてきました。
引用元:https://www.naoraou.com/entry/django-unchained
『そういう時代だったのだ』と一言で片づけていけない事は十分に理解した上で書くが南北戦争以前のアメリカでは黒人が差別を受けることは普通の出来事だったのです。
ココでレオナルド・ディカプリオの演技が光るのである。さも当然のように黒人奴隷に対して酷い仕打ちを自然にするのである。朝目覚めて顔を洗うかのように…食後に歯を磨くかのように…黒人に鞭を打つよう指示したり、暴言を吐いたり、死ぬまで戦わせたりするのである。
ココでのディカプリオは悪い男を演じてはいけないのである。当たり前なのである…普通の事なのである…『何も悪くないよ』といったように悪意が微塵も感じられない純粋な顔で黒人を痛めつけなくてはいけないのである。当時は当たり前の事なのですから…
当然のようにディカプリオは自分の演技に自己嫌悪してしまう様になるのだが彼の名演技なくして『ジャンゴ 繋がれざる者』の成功はありえなかったでしょう。
真実を描いたことで残酷でもあり…新鮮でもあった『ジャンゴ 繋がれざる者』であるが…鬼才タランティーノが作り出した作品だけにココで終わりではない。最後にはスカッとしてしまう復讐という展開が待っているのである。
ディカプリオの名演あっての本作なのだが…ココでもアカデミー助演男優賞を取り逃してしまう。不思議ですよね…
リベンジ
引用元:『ジャンゴ 繋がれざる者』を見た
『さぁ!黒人の皆さん お待たせ致しました』というセリフがどこからか聞こえてくるかのようにディカプリオ演じるカルヴィン・キャンディが撃たれた事をキッカケでジャンゴの白人血祭復讐祭が始まっていました。
次々と白人が現れてはジャンゴの銃撃によって頭を吹っ飛ばされ…心臓を撃ち抜かれ…死体の山が積まれていくのである。ココまでくれば倫理とか道徳とかは一切関係なく ただジャンゴの暴れっぷりに興奮している自分がいました。
ジャンゴも序盤から白人に悪態ぶって対抗はしていたものの…やはり黒人に対する扱いは映画とはいえストレスが溜まるものでした。特に犬に黒人を食べさせるシーンは『映画でもアカンやつ』と思わず呟いたほどである。
このリベンジシーンで私たちにカタルシスを感じさせるために冒頭からストレスの溜まる黒人差別シーンを見せつけられていた訳ですからスカッとしてしまうのは仕方がありません。
本作が劇場公開された時に映画館で黒人が歓喜に沸き立っていたという事を聞いて当然のリアクションであると感じました。ただ同じ劇場にいた白人は相当に肩身が狭かったことも想像してしまいました(笑)
ヘイトフルエイト
引用元:映画『ヘイトフルエイト』 公式サイト
タランティーノ版『ジャンゴ』の続編という扱いではないが『キル・ビル』『イングロリアス・バスターズ』『ジャンゴ』と復讐をテーマに描き続けてきたタランティーノが2015年に製作したのが『ヘイトフル・エイト』
舞台は南北戦争終結の数年後という戦争前だった『ジャンゴ』とは逆の奴隷が解放された時代という設定になります。
復讐をテーマとしてきたタランティーノの一つの答えが『ヘイトフル・エイト』の中で描かれていました。もちろんココでネタバレする事はしないので是非ご鑑賞していただければと思われます。
ヘイトフル・エイトを100倍楽しもう
『ヘイトフル・エイト』を100倍楽しもう
鑑賞前の予備知識記事はコチラから
タランティーノ節
引用元:『ジャンゴ 繋がれざる者』ネタバレ感想
映画業界に入る前はレンタルビデオ屋で働いていて映画三昧の毎日を過ごしていた…という有名なエピソードがあるクエンティン・タランティーノ監督。異様とも呼べるほど映画を愛し『映画おたく』という言葉さえも彼にとっては生ぬるく感じてしまいます。
そんな彼は作品の中に彼がリスペクトする作品のオマージュを入れまくるというのも有名な話である。しかもサンプリングとなった元ネタよりも上手に入れ込むという恐ろしいスキルを持っているのである。膨大な映画の知識があるからこその芸当であることは間違いありません。
引用元:https://www-video-lp.unext.jp/title/SID0043919
日本では『続・荒野の用心棒』というタイトルで公開された1966年のマカロニウエスタン。原題は『DJANGO』であり今作はココからオマージュされているという事は鑑賞前記事でも書きました。
OPでいきなり『さすらいのジャンゴ』が流れた時は『この映画は絶対に面白い』という確証が得られました。まさに私達が望んでいる事を裏切らずにやってくれる男がタランティーノなのである。更に付け加えると…
引用元:クエンティン・タランティーノ作品特集④
『続・荒野の用心棒』でジャンゴ役を演じたフランク・ネロがカメオ出演していたのです。新旧ジャンゴがカウンターに並んで『D・J・A・N・G・Oでジャンゴ…Dは発音しない』という当時と同じセリフが出たときは鳥ハダものでした。
こんなエモいセリフをブッ込んでくるタランティーノのセンスが堪らないのである。
引用元:「ジャンゴ 繋がれざる者」:大胆な設定と巧みな脚本でアメリカ映画のタブーに挑戦
そしてタランティーノといえば役者としても有名であり自らの作品にも出演したりもします。今回も終盤にジャンゴを輸送するカウボーイ役として出演していました。邪推かもしれませんが…あのエピソードもタランティーノが出演するためだけに付け加えられたような気がするのは僕だけでしょうか(笑)
総括
引用元:映画『ジャンゴ 繋がれざる者』ネタバレ感想・解説・考察!
過去の歴史から白人が黒人に対し酷い差別を行ってきたのは間違いなく事実である。しかし事実であったとしても現代において復讐することは絶対に許されない事であります。だったら映画の中で復讐を叶えてやりましょう…というのがこの頃のタランティーノの作風でした。
ジャンゴは白人に虐げられ続けていて妻であるブルームヒルダとも離れ離れになってしまった事で自由人になったジャンゴの目的は妻のブルームヒルダを救い出すという事だけでした。目的のためなら冷徹にもなり手段も選ばない徹底ぶりを見せるのです。時には熱くなりすぎて周りが見えていない事もありました。とてもヒーローの条件には合いません。
こういったジャンゴの性格を考えると…やはりウィル・スミスが言ったように影の主人公はドイツ人の歯科医であるシュルツとなってきます。少し理屈っぽい所はあるが話が周りくどいのは彼のアイデンティティとも呼べます。
何より正義感が強く白人でありながら黒人奴隷に対して反対の意見を持ち、犬に襲われている黒人の事も最後に思い出したりもします。時代的に南北戦争の数年前という設定からディカプリオが演じたカルヴィン・キャンディが南軍の象徴であるならシュルツは北軍の象徴とも思えるのではないでしょうか…
影の主人公がシュルツというのなら…影の悪のボスは…
引用元:ジャンゴ 繋がれざる者|もり はるひ|note
サミュエル・L・ジャクソンが演じた奴隷頭のスティーヴンであろう。もう見た目から悪人なのは間違いありません。カルヴィン・キャンディが傍若無人にやっているように見えるが実際は裏で操っていたのはスティーヴンだったように私は思えました。
実際に最後にジャンゴに殺されたのは白人ではなく黒人であるスティーヴンでした。
サミュエル・L・ジャクソンが出演すると聞くと『マ〇ーファッカー』がいつ聞けるのかと思ってしまうが…今回は『マザー〇ァッカー』を連呼するという面白演出(笑)タランティーノが期待を裏切らないのならサミュエルも絶対に私たちの期待を裏切ることはありません…といった所でオツカレっす!