『NOPE』をモーっと楽しもう

『NOPE』の考察レビューとなっておりネタバレが含まれております。
未鑑賞の方は鑑賞前の予備知識編の記事をご確認の上で再度お越しください

NOPE

引用元：【ネタバレ感想/考察】『NOPE ノープ』が描く最悪の奇跡を解説

2022年：アメリカ公開、日本公開
監督：ジョーダン・ピール
脚本：ジョーダン・ピール
製作：ジョーダン・ピール、イアン・クーパー
出演者：ダニエル・カルーヤ、キキ・パーマー
　　　　スティーヴン・ユアン 他
音楽：マイケル・エイブルズ
撮影：ホイテ・ヴァン・ホイテマ
製作会社：モンキーバウ・プロダクションズ
配給：ユニバーサル・ピクチャーズ
　　　東宝東和

『ゲットアウト』『アス』で一躍に有名になったジョーダン・ピール監督。クセの強い作家性が前面的に作品にも表れていて『NOPE』でも見事なまでに表現されていました。

『何回観ても楽しめる作品』と監督自身が言っていたように作品の中に説明がされていない伏線がいくつも埋め込まれていて私の様な者がアレコレと考察をしてしまう…というまさに監督の掌で見事に踊らされている状態となっていました（笑）

『NOPE』というタイトルも特に監督は意味のない言葉だと言っていましたが私にはそうは思えません。

『NO』（いいえ）を砕けた感じで表現する時に使う言葉が『NOPE』という事みたいである。

日本語だと『無理です』というよりも『ムリ～無理無理』といったように普通の『NO』よりは強めに否定はしているが少し砕けたように言っている感じですね

ではジョーダン・ピール監督は『ムリ～無理無理』と思ったのは何だったのでしょうか…

引用元：Jordan Peele ‘Nope’ home release date, details

UFOのような未確認生物の暴れっぷりが『NOPE』だったのか…私は監督自身が『NOPE』だと思った要因こそが本作の最大のメッセージではないかと思ったのです。

本記事では監督の『NOPE』と思った要因が軸となってきますが分かりやすく理解できるよう順を追って説明していきたいと思います…といったようにココでは『NOPE』を既に鑑賞しているという前提で記事を作成しております。ネタバレ注意となっておりますのでご了承ください

旧約聖書 ナホム書3章6節

わたしは汚らわしい物を、
　　あなたの上に投げかけて、
あなたをはずかしめ、
　　　　あなたを見ものとする。

引用元：ナホム書3 : 聖書日本語 – 旧約聖書 (wordproject.org)

冒頭にいきなり『旧約聖書 ナホム書3章第６節』の一文が数秒間表記されるのだが重要なテーマとなることは分かっていても日本人にとって馴染みのない旧約聖書を持ち出されてスグに理解することは非常に難しいと思われます。

しかしこのテーマを理解しないで鑑賞してしまうと…

①牧場にUFOがいる
②撮影して一儲け
③UFOじゃなくて生物だった
④なんとか撮影に成功

…といったIMAXカメラで撮影された大迫力のSF映画となってしまうのです。

「エンターテイメントの搾取性」

監督がテーマとしたのが見世物に対する消費という部分であり、特に金銭が絡んでくるエンターテイメントの世界では無慈悲にその者は搾取されてしまうのが常である…という仕組みなのである。

引用元：オリンピックのイラスト「卓球」 | かわいいフリー素材集

日本人に分かりやすく説明するなら”福原愛さん”がまさにエンターテイメントとして搾取されてしまった人だと思っています

卓球少女として幼少の頃からテレビでも活躍をして日本代表としてオリンピックにも出場を果たしている一流のアスリート選手なのですが私達の”福原愛さん”のイメージは『泣き虫の愛ちゃん』ではないでしょうか…

子供の頃の愛ちゃんはテレビに出ると必ず大人に泣かされていました。また視聴者もそれを望んでいたのです。しかし時が過ぎれば『泣き虫の愛ちゃん』は忘れ去られる存在となってしまうのです。

ただ福原愛さんは卓球に専念する頃ができたことで見事に日本代表としてオリンピックで活躍をするのですが…それと同時にまたエンターテインメントとしての搾取が始まってしまうのです。

更に引退後もマスコミのターゲットとなってしまい『結婚』『離婚』『不倫』といった報道が流れていました。

福原愛さんの立場で考えると『私生活は見世物ではない』という声が聞こえてきそうです

引用元：芸人からホラー監督へ転身!? 『Nope／ノープ』

『エンターテインメントの搾取性』つまりジョーダン・ピール監督が伝えたかった事は…

見世物じゃ ないんだぞ！

映画監督をしておきながら『見世物じゃないんだぞ』は矛盾に感じてしまうが監督自身が自分に問いかけているという意味も含めてエンタメ業界に投げかけている疑問だと私は感じてしまいました。

引用元：ハマリタガリ (hamaritagari.com)

前作で『人種差別』『格差社会』をテーマとして高い評価を受けたジョーダン・ピールですが確かに黒人が差別を受けているという事実は現実にあるとしても…それをエンタメとして消費していいのか？見世物としていいのか？というのは別の問題である。

結果としてジョーダン・ピールは過去作の評価を受けて『NOPE』の撮影ができるだけの巨額な資金を得ているのである

この矛盾と言えるテーマを『旧約聖書 ナホム書3章第６節』の一文を使い冒頭の数秒だけで私たちに伝えてくるのである…まさに理解は『ムリ～無理無理』と言えます（笑）

『見せる者』『見られる者』

引用元：空に浮かぶ“アレ”の動きは何かに似てる!?映画『NOPE／ノープ』

あの生き物はいったい何だったのだろうか…というのは特に問題ではないのである。むしろ問題なのは『見られると攻撃をしてくる』という性質の方なのだ。

まさにエンタメとして消費されている者からの『見世物じゃないんだぞ』という攻撃を表現しているのだと思われます。

ちなみにこのモンスターはエヴァンゲリオンの使徒からインスパイアされたみたいである

ゴーディー

引用元：https://t.co/Tylxbl06El」 / Twitter

『NOPE』の中で一番インパクトがあり恐怖に感じたのがゴーディーのシーンという方が多かったのではないでしょか…しかし恐怖と同時にメインである謎の生物の撮影とどう関連していたのか意味不明だという人も多かったと思われます。

確かにストーリー的に関連はないのだが…またゴーディーもエンタメとして搾取されている者側であるという事なのです。

ゴーディーが暴れる直前での家族の会話は誕生日を祝っているように見えますがゴーディーをバカにしているようなコントで笑いを取っているものでした。

まさに今の人種差別を表しているようにも捉えることができます。

特定のグループのメンバーに不快感や不利益を与えないように意図された政策としてポリティカル・コレクトネス（ポリコレ）が最近のトレンドとなっていてコンプライアンスとしても最適とされています。

映画業界で例えるなら出演者が白人だけだと差別的と思われるから原作には存在しないけど黒人を一人キャスティングする…といった配慮の事である。

パッと見は色々な人種を起用して多様性の高い考えと思われますがそれは見せかけだけの配慮なのである。これは上から目線での考えであり子供の時に鬼ごっこをしていて『君は足が遅いからタッチされても鬼にならなくていいよ』と言われているみたいなものである

鬼としたらタッチしても鬼に交代しない子を追いかけても無意味となるため追いかけることはしなくなります。必然的に足の遅い子は鬼ごっこに参加していないことになります。これでは面白くありません。

ゴーディーも暖かい家族に囲まれて誕生日を祝っているかのように見えますが頭の中では『見世物じゃないんだぞ』という気持ちだったという意味での反撃だったのでしょう。

引用元：Nope : pourquoi les flashbacks de Gordy sont indispensables

幼き頃のジュープは運が良くテーブルクロスが邪魔となりゴーディーの目を見ることができませんでした。だから攻撃を受けることがなかったのです。

引用元：ネタバレ考察「NOPE」猿のゴーディ事件と宇宙人との関連性について

ちなみに監督は巨匠スピルバーグの影響も受けていたと語っていました。明らかにETですよね（笑）

ジュープ

引用元： https://t.co/ssM3BtlweO」 / Twitter

ジュープもまた子供の時にエンタメに消費されていった人物。子役として人気のあったジュープだが次第に飽きられてしまい現在は街の外れでウエスタン調のテーマパークを経営していました。

本作は人種によって色々な立場が表現されていました。白人は搾取する『見せる者』黒人は消費されていく『見られる者』そして中間である黄色人種のジュープは両方を兼ね備えた『見せる者』でもあり『見られる者』でもあるという立場。

しかし彼は『見られる者』の痛みを知りながらも謎の生物をテーマパークの『見世物』として扱ったことで吸い込まれてしまう結果となったのです。

ホルスト

引用元：Nope: Why Antlers Really Wanted The Impossible Shot

手巻きのIMAXカメラを携えての一流カメラ技師であるアントラーズ・ホルスト。『見せる者」を象徴するかのような人物であり、もちろん白人という事になります。

傲慢でプライドが高く欲深いことが災いとなり最後はカメラごと謎の生物に吸い込まれてしまいました。

ホルストの登場から作品の雰囲気はまさに…JAWS

引用元：映画｜JAWS／ジョーズの動画をフルで無料視聴できる配信サイトまとめ

JAWSもスピルバーグ作品でパッケージのサメの画とNOPEのジャケットの画が似ていると思ったのは私だけでしょうか・・・

ちなみにホルストの設定はJAWSに出てくるサメハンターのクイント船長。JAWSのネタバレとなってしまいますがクイント船長も傲慢でプライドが高く最後はサメに食われてしまうというオチまで同じなのであります。

テーマを気にせずに鑑賞してしまうとスルーしてしまいそうになるのだが実は本作には『見せる者』と『見られる者』に分けることができるのである。

しかし『見せる者』と『見られる者』という関係が崩れることがあるのです。それこそが監督が意図している『ムリ～無理無理』という意味であると私は感じてしまいました。

監督の意図した『NOPE』

引用元：ジョーダンピールのノープを見る方法

白人が搾取してきて黒人が消費されてきた…という歴史があるという事を監督はメッセージとしていたわけではありません。消費されてきた者たちの復讐という意味でもありません。

監督が伝えたかった事は

人は簡単に
　 消費される側から
　　　搾取する側に変わる事ができる

主人公であるOJとエメラルドは『見世物』として扱われていた黒人でしたが謎の生物を映像に収めて『見世物』にしようと計画していました。

つまり白人である、黒人である、黄色人であるとかは関係なく人間のメカニズムとして強い者が弱き者を支配してしまうという性質が人間には本能的に存在するという事である。

『見られる者』として不遇に扱われていたとしても自分たちより弱い存在を見つけてしまうとその者たちを『見世物』にしようとするのが人間なのである

この差別をしてしまうメカニズムという事実に対し人間たちはすでに理解しているのである。しかし目を合わせようとしない。分かっていながら分かっていないフリをしているのです。

謎の生物を見てはいけない…目を合わせてはいけない…コレは今の私たちが臭い物に蓋をしているだけであり監督はこの人間の性質に対し『ムリ～無理無理』だったのではないでしょうか・・・

総括

引用元：【ネタバレ感想/考察】『NOPE ノープ』が描く最悪の奇跡を解説

正直に申し上げると初見での感想は『私にはハマらなかった』とTwitterでボヤいたのですが…何度も鑑賞していくうちに本作の魅力に気付いてしまい、なぜあのようなツイートをしてしまったのかと反省しているところです。

もちろんまだ隠された伏線は回収できていないと思われますが監督が意図していた事の半分は理解できたのではないでしょうか…やはり差別であったり格差であったりは分かっていても中々と無くならないものである。

私自身も目を背けていたのかもしれません。しかし本作でOJが最後に取った行動こそがコレからの人間がすべき行動なのだと感じました。

引用元：Nope ending addressed by Jordan Peele – is OJ dead?

このポーズは『お前を見ている』という意味である。OJが最後にとった行動は見ると攻撃をしてくる生物に対し『見る』という行動である。

人間の汚さ、ズルさ、醜さ、卑劣さ、全て知った上で俺はお前を見てやる…正面から受け止めてやるという意志が伝わってきます。

パンドラの箱ではないがまだ人間には望みが残っているというジョーダン・ピールからのメッセージとも捉えることができます。

たくさんの伏線が隠されていて見つけるのに苦労した作品ではありましたが考察好きとしては非常に楽しむことができました…といった所で一つだけ全くといっていいほど理解不能なカットがあるのです。

引用元：https://t.co/bNccd0Lfju https://t.co/9jtc4NJbVS」 / Twitter

ゴーディーが暴走するシーンで靴がありえない感じで立っているのである。

色々な方の考察を拝見させてもらったのですが納得いく見解がなく、いまだ謎のままにあります。いつしかスカッとした考察が現れることを期待したいと思います…って所でオツカレっス！